平和の温故知新@はてな

ライトノベル関連のニュース、感想、考察などを書いていました。管理人まさかの転職により2013/04/06を持って更新停止。……のはずが、たまに更新されることも。

一迅社文庫「覚えてないけど、キミが好き」発売記念、比嘉智康スペシャルインタビュー(前編)

覚えてないけど、キミが好き (一迅社文庫)

覚えてないけど、キミが好き (一迅社文庫)


MF文庫Jにてデビューし、その独特の読み味から根強いファンを獲得している比嘉智康先生が一迅社文庫から新作を刊行!
この機会に比嘉先生と担当編集のT澤さんに創作秘話や新作のお話を伺ってきました。

4/23追記

こちらのインタビュー記事は前編にあたり、主に比嘉さんのこれまでの創作活動にスポットを当てています。
そして後編では、まず皆さんが気になる「一迅社文庫で書くことになった経緯」とかにも触れつつ、
新作ができるまでのお話を聞きました。キーワードは「バルチックしてぇ!」ですw
『覚えてないけど、キミが好き』発売記念、比嘉智康スペシャルインタビュー(後編)一迅社文庫編集部のブログ)
更に、表紙やタイトルをどうやって決めていったのかも比嘉さん、T澤さんに詳しく語って頂けました。

追記ここまで、以下インタビュー本文


―――今日はよろしくおねがいします。


比嘉智康(以下、比嘉):よろしくおねがいします。


―――比嘉先生はMF文庫J新人賞からデビューされたわけですが、新人賞へ投稿するまでを教えて下さい。


比嘉:僕は北海道で生まれ育ったのですけど、中学校の時に学校に馴染めず、不登校になっていました。
中二のときに厨二病をこじらせまして(笑)
このままじゃ人生ヤバイなというのを感じ「何か夢を持とう」と思い、そして自分が好きなモノはなにかと考えた時に「小説家になりたい」と。


―――新人賞への投稿はすぐ始められたのでしょうか。


比嘉:いえ、ここからが難しくて。
すぐ応募できる枚数まで書くっていうことができなくて中学生の頃は書き上げられず、高校では寮生活であまり書けなかったんですよ。
超ヤンキーと超内気な少年が集まる学校でした。
中学生の頃はゲームとかマンガとかアニメから色々と吸収した時期で、高校は寮暮らしで生身の人間と接する機会が多かったですね。


―――当時の執筆スタイルはどういった感じだったのでしょうか。


比嘉:寮では二人部屋で、四六時中誰かがいると本読まなくなっちゃうんですよね。
書くことからも遠ざかっていて。胸の中では「いつか作家になってやる」と思うものの、そのための努力というのは特にできていなかった高校時代でした。
あの時は僕もまぁ内気をこじらせていたので、女子とも喋れませんでしたから……


―――比嘉さんの作品はそういった登場人物の青春の悩みがよく出ていて共感できます。書かれているうえでそういう経験が糧になっているのでしょうか。


比嘉:たくさんありますね。自分の小説は自分の人生で感じたことを変換したり、そのまま書いてみたりとか、そんなのばっかりです(笑)


―――そうすると登場人物のモデルになった人物などがいたりする?


比嘉:誰か一人をそのまま使うということは無いんですけど、これまでの人生で出会った人たちをその都度ブレンドして作るみたいなことが多いですね。
うまく共感されているとしたら、今後も懲りずにこうやって創作していきます(笑)


―――デビュー前後で執筆環境などは変わったのでしょうか。


比嘉:変化はありますね。今は実家で書いているのですが、以前は一人暮らしをしていて、そこで『ギャルゴ!!!!!』とかを書いていたのですけど、そこがまぁ壁の薄いところで、隣室のトイレの音が聞こえてきたりとかしていました。
「早くこの部屋から出たい!」という一心で書いていたようなところはあります。


―――今は執筆が生活の一部という感じなのでしょうか


比嘉:もう書くこと以外ほとんどやってなさすぎるくらいです。書き方がカチッと決まったのは『ギャルゴ!!!!!』のときだったのですけど、MF文庫Jさんで受賞させていただく前に二度ほど新人賞に出して箸にも棒にもかからず落ちた経験がありまして。
落ちた時に改善しようと思い、どこが良くなかったのか考えると、今まで書いた小説はずっと一人称で書かせてもらっているんですけど、そのとき2つとも三人称で書いていたんですよね。
あと企画書というか、プロットをカチッと作って書き始めたんです。でも『ギャルゴ!!!!!』以降は、もう行き当たりばったりで書いているところがありまして。


―――プロット派、ライブ派と人によってタイプの違いはありますね。比嘉さんの場合だと、一人称でプロットを固め過ぎないほうがしっくりきたということでしょうか。


比嘉:僕の場合、かっちり決めると安心してしまって途中から脳みそが考えなくなっちゃうんですよね。例えばこう、ヒロインと主人公をエピローグでこうしたい、というようなゴールははっきりイメージができていて、そこまでの間を「何か起こるはず」と思って行き当たりばったりで書いちゃっている。


―――読者にしてみると、いい意味で先の読めなさに繋がっていると思います。


比嘉:そうだとありがたいですね。


(ここで担当編集のT澤さんからも質問が)


T澤:ところで、三人称で書いたという2作はどんな内容だったんですか?


比嘉:それがですね、僕は漫画家の古谷実さんの作品がすごく好きで、「稲中卓球部」とかが有名ですけど、他にも暗いというか心に闇のある作品があって、まさにそれに憧れたような作品でした。いじめられている男の子二人が他人の人生を操れるゲームを拾って、クラスメイトの人生を操るというような話です。
今より輪をかけて力量がなかったので、話に収拾がつきませんでした。
僕は登場人物の視点が切り替わる描写に憧れていたり好きだったりしまして、2つ目に書いた小説は高校生だけの劇団の公演前日と当日の二日間を描いたもので、登場人物13人の視点が交互に入れ替わる作品でした。


T澤:それはもしかして映画の『櫻の園』ですか?


比嘉:ああ、『櫻の園』もそうですね。1つめの作品が暗すぎたということで明るいものにしたいというのがあって、三谷幸喜さんの『ラヂオの時間』とかそういう雰囲気に惹かれて書いていた部分が大きいですね。
クライマックスで泣ける作品も途中までは笑えていたほうがいいなと思うようになって、「楽しく読んでいたけど最後はいい話じゃないか」と読者さんに思ってもらえるような作品に憧れています。


―――比嘉さんご自身のなかでは執筆時に「どんな作品を書きたいのか」というのは明確なのでしょうか。


比嘉:『ギャルゴ!!!!!』の時は男子中学生の一人称で、ちょっと饒舌っぽい文章で、なにかこうヘンテコなB級の話をという方向でした。都市伝説で事件が起こって、そこで少年少女が近づいたり離れたりという青春を書きたい、と。
あのときは「こういう話書きたいな」というアイディアは幾つもあったんですが、取捨選択をせずにそのまま突っ切ったというか、吟味できていなかったんですよね、自分で。
書いてみてから「結構難しいところにきているかも」と。2巻とかはこれぐらいのストーリーだと100ページぐらいで収まるとかを当時全然わからなくて、企画書では4話構成にしますとしてOKが出て書き始めたら1話目で200ページ使ったよ!みたいな。全然こう、わかっていなかったんですね。
小ネタを盛り込んでいたらどんどん増えてしまったという。


―――完結まで持っていくのは苦労されたのでは。


比嘉:シリーズの完結に進む時、クライマックスにいけばいくほど、迷わなくなるんですよね。最初は選択肢が凄く多くて、そこから1巻が出ることで幾つかの選択肢はなくなって、どの部分で勝負する小説なのかが自分の中で決まっていく感じです。


―――そうだったのですね。では具体的に各作品についてお聞きします。やはりデビュー作の『ギャルゴ!!!!!』についての思い入れは強いのでしょうか。


比嘉:そうですね。『ギャルゴ!!!!!』は強いですね。なんかこう、この時は自分の弱点を隠そうとしていたなぁ、というのを思い出します。僕はこう、剣とか銃とか魔法で戦う主人公というのを他の作家さんみたいにうまく書けないなとデビューする前から思っていて。物干し竿で戦う主人公なら突っ込まれないだろう、と。「物干し竿の使い方がおかしい」とは言われないはずで(笑)


T澤:主人公の武器が物干し竿だったのはインパクトありましたね。その物干し竿はどこから出てきたんですか?


比嘉:都市伝説の元凶と戦うわけですけど、武器は格好いいものじゃなくその辺りに日常的にあるものがいな、と思って。その日は武器を決めることで考えていて、そのときにウチのおかんが「ホームセンター行くよ」と買い物に付き合わされて、その時に物干し竿を買ってきたんですよね。なんとなく「物干し竿で殴ったら痛そうだな」というのと当時読んでいたマンガで槍を振り回すシーンがあって、これは格好いいな、と。


―――そのとき電流が走ったわけですね(笑) 次に『神明解ろーどぐらす』を書かれたわけですがこの時は題材に悩まれたりしましたか?


比嘉:とかくいつも悩みすぎてしまうんですけど、物語にあえて制限をつけようと思ってまして。世には面白い作品がたくさんありますが、こっちはこっちで特色を出せないかなと思っていた時で、下校のシーンだけを書くというのをやってみようと。
しかも僕は学生時代にそういうことも無かったわけで、想像・妄想です(笑)


―――この作品は後半に行くにつれて意外な展開もありますが、そこは狙っていたのでしょうか。


比嘉:1巻や2巻を書いていた頃は全くといっていいほど考えてなかったです。ろーどぐらすに関しては自分でも知らないうちに変なスイッチを押してしまった感じがあります。


―――ちなみに普段の執筆ではコメディ的な展開とそうでない雰囲気の展開と、どちらが書きやすいのでしょうか。


比嘉:コメディ的なもののほうが少し筆も進む感じですね。それまでと違うほうにハンドルを切ると期待していたものを減らしてしまう場合もあるわけで。僕はこっちのほうが面白いな、と思いながら書いていますが読者の皆様には「ほんとすまねぇ」と。比嘉智康にどうかついてきてください(笑)


―――更に次は『泳ぎません。』の話にいくのですが、これまでの作品の中でも特に可愛いヒロインが多かったです。


比嘉:ヒロインを創る時は暗中模索というか、『ギャルゴ!!!!!』のときはこういうヒロインが必要だと書いていてわかるんですけど、『泳ぎません。』の場合はどうすれば面白くなるのか悩みましたね。
この作品での得難い経験として、女の子を描く時は主人公がキモなんだと感じました。男の主人公の目を通してみた子が、読者山が呼んだ時に可愛く見えたり、気になる子に見えたりするので、男主人公のフィルターがすごく大事で。他作品の主人公も書くと凄く思い入れが強くなります。


―――主人公が特徴的で、好感がもてますよね。主人公の目を通さないとキャラクターは描きにくいということでしょうか。


比嘉:『泳ぎません。』を書かせて頂いたことでだいぶわかりました。今もまだ成長過程ではあるのですが(笑)


T澤:ちなみに、イラストに影響されたところってあったりするんですか?


比嘉はましま薫夫さんの描いてくれたイラストを見て、こういう喋り方するんじゃないかな、とか思うところがありましたね。


T澤:はましまさんを知ったきっかけというのは?


比嘉:……それを言ってしまうと数少ない女性読者が更に減ってしまいます!


(ここからしばらくアレなゲームの話題ですが割愛)


―――ご自身もファンである方にイラストを担当していただくというのはやはり大変嬉しいでしょうか。


比嘉:やはりそれはあります。感激しましたね!


―――作家さんならではの楽しみですね。


T澤:はましまさんは本当にピッタリでしたね。


なにやら怪しい話題にも差し掛かったところでもあり、もっと色々とお聞きしたいところではありますが、残念ながらインタビュー前編はここまで。
新作についてなど、後編は一迅社文庫ブログにて公開となります!


取材・文:平和